パパのプロポーズ


「じゃあ、うちがおとなになったらけっこんしてくれる?」
「ふふ、そうだね。その時にお互いパートナーがいなければ、考えてもいいよ」
自分の知識にある言葉の中から一生懸命に好意を伝える子どもと、きっとそんな将来が来ることはないとある意味楽観視して期待をさせる大人。年の差ラブストーリーにありがちな、そんなやり取りが目の前で繰り広げられている。それも、四十手前の美丈夫と、人形のように愛らしい美少女の。
あまりの絵面の強さに「漫画やドラマだけの世界だと思ってた」とか、「もはや宗教画」といった感想を抱く人間がいてもおかしくなさそうである。おかしくなさそうではあるが。
「あっかーん!!!」
午後3時、シックなキッチンにあまり似つかわしくない元気な関西弁が響き渡る。
思いのほか大きな声が出たことにハッとして口を抑えるが、時既に遅し。
みかがしまった、と思った時にはティータイムの準備をしていた宗と少女の視線が彼を捉えていた。
キョトンとした表情でさえも気品溢れる二人である。とても絵になる。が、少女の表情が次第に曇り始めた。
「んぁ、なにがあかんの?うち、わるいことしてしもた?」
「んああ!?ごめん、ごめんな!?びっくりさせてしもたね?娘ちゃんはなんも悪いことしてへんよ〜!」
愛娘の大きな目にじわりと涙が滲んでいることに気づいたみかは、慌てて弁明した。
「パパな、娘ちゃんが誰かさんと結婚するって聞こえて焦ってもうたわ。そんなんおれの聞き間違いやんなぁ?」
娘のお気に入りのハンカチで目元を優しく拭いながら、気のせいであってほしいと願う。だがその願いはすぐさま打ち砕かれる。
「ううん。うち、しゅうさまにけっこんしてって言うた」
「んあああ〜っ!!!」
みかの情けない声に、親子のやり取りを見守っていた宗は耐えきれず、「ん゛っ」と咳き込んだかと思うとそのまま俯いてしまった。
「影片、ふふっ……その子は本当に、君にそっくりだね」
「そらオレの子やしちょっとは似とると思うけど娘ちゃんどっちか言うたらママ似やしって今それ関係あらへんわ!笑ろてる場合ちゃうねんけど!?誰のせいやと思っとるんよ!?」
堪えてはいるがあからさまに肩と声が震えている宗に向かってみかは吠えた。
「あんたと地獄の果てまで一緒に行くんはおれなんやから!!!」
あまりにも斜め上、否。
「カッカッカッ!やっぱり、君たちは親子だね」

***
みかが飛んでくる少し前。
「ねえしゅうさま」
「おや、どうしたのかね」
「うちと“じごく”におちてくれる?」
「……君、どこでそういう……いや、いい……」
「?」
「一応聞くけれどそれは“いつもの”かい?」
「うん、ぷろぽーず」
「悪いけど、そのプロポーズは受けられないよ。君のお父様に聞かれでもしたら大変だしね」
「うちがこどもやから?」
「まあそれもあるけれど、さっきのは…」
「じゃあ、うちがおとなになったらけっこんしてくれる?」